『品川心中』

演目『品川心中』

◎あらすじ◎

落語「品川心中」は、江戸の遊里・品川宿を舞台に、年を重ねて客足が遠のいた女郎・お染と、間の抜けた貸本屋・金蔵との騒動を描いた滑稽噺です。

お染は白木屋の板頭(遊女のまとめ役)を長年務めてきましたが、寄る年波とともに人気が落ち、生活も苦しくなります。紋日(祝祭日)に必要な金も用意できず、いっそ死んでしまおうと決意しますが、一人で死んでは「金に困って死んだ」と後ろ指をさされるだけ。どうせなら心中にして、華々しく散ってやろうと考えます。

心中の相手を物色する中で白羽の矢が立ったのは、神田から通ってくる貸本屋の金蔵。お染は「馬鹿で大食いで助平で欲張り、あんな奴は死んだ方が世のため」と辛辣な理由で相手に決定。お染からの手紙に舞い上がってやってきた金蔵は、お染が金の工面がつかず死ぬと言うと、「家のものを売って四十両つくる」と張り切るも、結局一両程度しか期待できず頼りにならない。

それでもお染は金蔵を言いくるめ、心中決行へ。金蔵は白装束を用意するも、自分のは半端物で腰までしかないというみじめな格好。それでも親分に挨拶し、「十万億土へ行く」と壮大な別れの言葉を残して、いざ海へ。酒と料理でもてなされた金蔵は心中を忘れかけていたが、お染にせかされ、ついに品川の桟橋から海へ飛び込む羽目に。

しかし、品川の海は遠浅で、金蔵は腰まで水に浸かるだけ。傷だらけ、藻だらけ、舟虫までくっついた無様な姿で岸に上がる。白装束の幽霊のような金蔵は、道行く人や犬に追われ、高輪から親分の家に駆け込み、ことの顛末を語ります。

親分は一計を案じ、金蔵を幽霊に仕立ててお染に一杯食わせる計画を立てます。翌日、金蔵は青ざめた顔で白木屋に現れ、陰気な様子で奥に引きこもります。そこへ親分と、金蔵の弟に扮した子分・留公が現れ、「金蔵の遺体が見つかり、起請文もあった」とお染を追い詰めます。

お染は最初こそ信じませんが、金蔵が寝ていた布団はもぬけの殻、そして位牌には「大食院好色信士」の文字。さすがに観念したお染は真っ青になり、髪を根元から切り、供養料として五両を差し出します。

そこへ「ちゃらちゃらちゃら」と金蔵が踊りながら登場。すべては仕返しだったのです。

怒るお染に、親分が「そんなに客を釣るから魚籠(びく)にされた」と洒落で締める、笑いと風刺に富んだ結末となります。

この噺は、男女のすれ違いや滑稽さ、人情と機知にあふれた典型的な江戸落語の一席です。

◎演目視聴◎

こちらでは『三代目古今亭志ん朝』と『三代目三遊亭圓歌』の『品川心中』を2本、ご紹介いたします。噺家が変わると、同じ演目でも感じ方が異なります。ぜひお楽しみください。

三代目古今亭志ん朝(1938-2001)
『品川心中』(25分55秒)

品川心中1

 

三代目三遊亭圓歌(1929-2017)
『品川心中』(29分30秒)

品川心中2