『代脈』

◎あらすじ◎

江戸・中橋に住む名医、尾台良玄には、銀南という弟子がいる。銀南は勉強はからっきしだが、食い気と色気だけは一人前以上。ある日、良玄先生は居眠りしながら薬を刻んでいた銀南に、橋場の御寮で療養している商家・伊勢屋の若い娘の代診(=代脈)に行けと命じる。ところが銀南は、「代脈」という言葉すら知らない有様だ。

とはいえ、銀南が行くとなれば、相手には「若先生」として見せなければならない。良玄先生は礼儀作法や立ち振る舞いを丁寧に教え込もうとするが、銀南はまるで真面目に聞かず、ふざけ半分。頼りない限りだが、本人は「若い娘の腹をさすれる」と色気だけでやる気満々になる。

先生は、「先日の往診で、お嬢様の下腹が堅く、お腹を軽く押したら、恥ずかしそうにおならをされた」と話し、気づかいとして「耳が遠くなったから、大きな声で」と母親に話しかけ、お嬢様の気持ちを和らげたという。が、銀南はその機転にも感心せず、ただ「押せばおならが出る」話ばかりに気を取られる。

いよいよ銀南は駕籠で橋場の御寮へ。道中で爆睡し、着いた先ではもてなしの羊羹を頬張りながら失礼な態度を連発。通された部屋で母親にトンチンカンな挨拶をした後、ようやくお嬢様の部屋へ案内される。

そして、「お脈を拝見」と言いながらお嬢様の手を取ろうとするが、なんとそれは飼い猫の手。引っかかれても全く気にせず、念願のお腹をさすり始める。先生の話どおりシコリを見つけ、「これだ!」とグイッと力強く押すと、今度は大音量で「ブウゥ~~」とおならが鳴り響く。

ここまではまだよかった。先生のまねをして、「最近は年のせいか、耳が遠くなって…」と涼しい顔で言う銀南。ところが、母親が「先日の大先生も耳が遠いとおっしゃってましたが、若先生も?」と問うと、銀南はうっかり、「そうです、だから今のおならも聞こえませんでした」と口を滑らせてしまう。

お嬢様の名誉も台無し。せっかくの先生の気遣いも台無し。銀南の思慮のなさとずれた色気が招いた、とんでもない騒動である。

◎演目視聴◎

こちらでは『三代目古今亭志ん朝』の『代脈』をご紹介いたします。ぜひお楽しみください。

三代目古今亭志ん朝(1938-2001)
『代脈』(35分23秒)

代脈