◎あらすじ◎
江戸・根津七軒町に住む人気の女師匠・豊志賀は、男嫌いが評判の美人三味線師匠。弟子には女性も多くいたが、ある日、21歳の男弟子・新吉と嵐の晩に一夜を共にしたことから、二人は深い仲となり、やがて同棲を始める。親子ほど年が離れた二人だったが、豊志賀は新吉に強く心を寄せ、独占欲を募らせていく。
そんな中、女弟子の一人・お久が稽古に通い続け、新吉と軽く笑みを交わす様子に豊志賀は嫉妬し、次第にお久に冷たく接するようになる。そして豊志賀はある日、顔にできたできものが悪化し、顔の半分が紫に腫れ上がる重い病にかかる。容姿が崩れていく苦しみと嫉妬が重なり、豊志賀の心は不安定となり、新吉に対して執着心と恨み言をぶつけるようになる。
「私を捨ててお久と一緒になったら、◯してやる」――そんな言葉を毎晩聞かされる新吉は、恐ろしくなって叔父の勘蔵に相談し、逃げることを決意する。ある晩、家を抜け出した新吉は偶然にもお久と出会い、事情を語り合う中で、共に江戸を離れて暮らすことを決める。しかしその時、お久の顔が突如、病に冒された豊志賀と同じように変貌し、不気味な言葉を吐く。驚いた新吉は逃げ出し、勘蔵の家へと駆け込む。
そこに現れたのは、まさにさっきまで病床にあったはずの豊志賀。彼女は気味の悪い形相で新吉を見つめ、「身体が治ったら、お前には好きな嫁をもらわせてやるから、それまで一緒にいてほしい」と告げる。その後、駕籠に乗せて帰すが、直後に近所の者が知らせに来る。「豊志賀が亡くなった」と。台所で転倒し、顔を強く打って息絶えたという。新吉らが確認すると、駕籠の中には誰もおらず、そこにいたのは幽霊だったのだ。
彼女の遺書には、「お前を呪って◯ぬ。女房を持ったら七人までは祟ってやる」と書かれていた。新吉はその後、お久と共に駆け落ちし、下総へ向かう。松戸で一夜を共にした翌日、累ヶ淵と呼ばれる場所にたどり着く。天候は荒れ、お久が怪我を負ってしまう。彼女は新吉にすがるが、ふと見たその顔は死んだ豊志賀のものと瓜二つ。錯乱した新吉は、お久を◯してしまう。
逃げようとする新吉の前に現れたのは、またしても豊志賀の面影――深く恐ろしい愛憎の執念が残した、悲劇の幕引きであった。
◎演目視聴◎
三代目古今亭志ん朝(1938-2001)
『真景累ケ淵 豊志賀の死』(1時間1分47秒)
